実は超難問!デイサービスにおける送迎表の作成業務
こんにちは、モミジ丸です。
今回は、「デイサービスで送迎表の作成がうまくできない」と悩んでいる方に向けた記事です。
フリーランスのWebライターとして活動中の元介護職です。介護現場で10年以上働いた経験を生かして「介護関係」の記事執筆が得意です。
デイサービス・特別養護老人ホーム・障がい者福祉施設での勤務経験があります。
デイサービスで送迎表の作成担当者は、日々どのようにしたら短時間で精度の高い送迎表が作成できるのか悩んでいることでしょう。
結論から言うと、送迎表を人力で作成して最短経路を求めるのは不可能で、送迎表作成支援システムの導入をオススメします。
私もデイサービスでの勤務経験があり、その際に送迎表の作成に携わっていました。毎日、送迎表のことで頭がいっぱいで、時間をかけて作成しても後からさらに良い案を思いついたりします。
そこで、「短時間での作成」「高精度な送迎表」の完成を目指して、私はGoogleが公開しているAIとPythonを利用して送迎表作成システムを構築しました。
それらの経験から介護施設における送迎表作成の問題点や、改善方法について考察します。
手始めに次の送迎表は作れますか?
送迎表作成の難しさを感じてもらうためには、一度作ってみるのがわかりやすいでしょう。
そこで、手始めに上の地図に示したマーカーをつないで送迎表を作ってみてください。問題の条件は、以下の通りです。
1.家のマーカーは施設
2.赤のマーカーは席に座れる利用者
3.青のマーカーは車いすの利用者
4.利用者の総数は35名
5.送迎にかかる時間は1時間以内
6.送迎車は何台使用しても可
どうでしたか、パッと見て送迎ルートごとにグループ分けをするのは難しいと感じませんか。実際には、送迎車の種類や数、車いすの利用状況により難易度はさらに上がります。
巡回セールスマン問題
いきなり送迎表を作成するのは、難しすぎると感じたかもしれません。
そこで、次は車の搭乗者数の上限を無視して、1台の送迎車ですべての地点を回るルートの場合を考えてみましょう。
この問題は「巡回セールスマン問題」と呼ばれ、1人のセールスマンがすべての地点を最短で回るルートを計算する最適化問題と同一です。この問題の特徴は、地点が増えれば増えるほど難解となることです。
Google OR-ToolsとPythonを利用したシステムで、この問題を解いてみたところ以下のルートとなりました。
ルートを見てみますと、実際に通れるルートは直線的でないことがわかります。場所によっては、一方通行などもあり、それらを考慮するとこのようなウネウネとしたルートとなります。
ちなみに、ルートの総距離は約62kmです。このルートであれば約5時間30分で送迎できます。
この問題は35地点の巡回セールスマン問題なので、最短経路を求めるには35!/2✕35通りすべてを計算する必要があります。しかし、すべての組み合わせは1.476×10の38乗と途方もない数です。この組み合わせを実用的な時間で調べることは、スーパーコンピューターをもってしても長い時間を要します。
つまり、AIを利用しておおよそ最短であろうルートは求められても、最短ルートを求めることはできません。
実際は1台で送迎できません
巡回セールスマン問題より、送迎表の作成がいかに困難な作業であるか理解できるはずです。
巡回セールスマン問題では、地点が1つ増えるごとに難易度が格段に上がります。例えば40地点であれば、組み合わせの総数は1.101×10の46乗で、途方もなく高難易度な問題です。
さらに、送迎表を作る際には、「搭乗者の上限数」「車いすの利用状況」「送迎車の数や種類」などを考慮する必要があります。考慮すべき条件が増えるほど組み合わせの数が膨大になります。
つまり、送迎表の作成は、巡回セールスマン問題よりも遥かに高難易度です。
最初に紹介した問題をシステムで作成した送迎表が以下となります。
図における色分けは、送迎車が違うことを意味しています。図のように9台の送迎車を利用することで、1時間以内にすべての地点をいけるようになりました。
AIを活用するメリットは、複数の送迎表を作成できる点です。作成した他の案についても紹介します。
こちらの案も9台の送迎車で1時間以内に送迎できるルートです。どちらの送迎表も問題がないように思えます。しかし、2つの送迎表は総距離が大きく異なり時間も距離も短い、送迎表案1が優秀です。
このように送迎表は、パッと見ただけで優劣がわかりにくいのが特徴です。そのため、いつまでも「もっと良いルート」を探しつづける原因にもなります。マップを活用していない送迎表であれば、尚更わかりにくいはずです。
人の手で送迎表を作成する問題点
これまで説明してきたように、送迎表の作成はとても困難な作業です。
そのため、人の手により送迎表を作成すると以下のような問題が発生します。
・送迎表の作成に十分な時間を確保しにくい
・計算できるルートに限りがある
・修正に時間がかかる
これらの問題点について解説していきます。
十分な送迎表作成の時間を確保しにくい
まず問題となるのは、上司や同僚が送迎表作成の難易度を理解していない場合です。「時間がかかりすぎ」「考えてばかりではなく、早く現場を手伝ってほしい」など同僚から言われた日には、なかなか送迎表作成の時間を確保しにくくなります。
しかし、送迎表はNP困難と言われ、最適化問題のなかでも難しい部類に入ります。十分な送迎表作成の時間を確保できない場合は、上司と相談して時間を確保してもらいましょう。
計算できるルートに限りがある
次の問題点は、人の計算能力に限界があることです。送迎表を作成する場合、一般的に、1通りの送迎表を作成し、問題がないかを確認します。問題がなければ1通りの送迎表の作成で完了します。
この方法では、複数のルートと比較検討ができないため、走行距離・時間の短いルートがあっても気づけません。
そのため、後々「こっちのルートの方がいいんじゃない」と修正を迫られることにつながります。
修正に時間がかかる
送迎表は利用者の利用状況により変更・修正する必要があります。キャンセルや追加利用などにより、送迎表を修正することは日常茶飯事です。
しかし、少しの修正であっても容易ではないのが送迎表の修正です。担当者にとっては、毎日の修正も負担となります。
システムを活用することによるメリット
短時間・高精度な送迎表の作成を目指している方にオススメなのは、送迎支援システムを活用することです。そこで、システムを活用した場合のメリットを紹介します。
送迎表の優劣をつけやすい
今までの送迎表では優劣をつけにくかったのが問題点でした。
システムを利用することによるメリットは、送迎時間の目安が表示されるためです。システムによってルートを作成すると各ルートの所要時間を計算してくれます。そのため、時間や距離といった数値で送迎表の優劣をつけやすくなります。より良い送迎表を目指す場合には、このような数字での比較が重要です。
気づかなかったルートが見つかる
AIを活用したシステムであれば、今まで気づかなかったルートが見つかることもあります。より良いルートを見つけるためには、AIを活用したルート計算も重要な役割を果たします。
今までのルートよりも、さらに良いルートを見つけるには人力では限界があります。
最適なルートでコスト削減
最適なルートの送迎表を作成できれば、ガソリン代の節約につながりコスト削減となります。また職員の時間の節約にもつながり、その時間を利用者へのケアに充てることで満足度も高まるでしょう。
利用者や家族に到着時間を伝えられる
システムを利用するメリットは、到着時間が把握できる点です。利用者や家族のなかには、送迎がくるのを今か今かと待っている方もいます。事前に到着時間を連絡できれば、利用者や家族の満足度を上げられるでしょう。
ルートがわかりやすい
マップを活用したシステムであれば、送迎ルートを視覚で確認できるのがメリットです。新人職員への説明もしやすく、送迎業務における職員の負担を軽減できるでしょう。
送迎表の作成はシステム導入がオススメ
送迎表の作成は、NP困難といわれ最適化問題のなかでも難解な部類です。
そのため人の手で作成するよりは、送迎表作成支援システムなどを活用して作成するのがオススメです。作成時間を短縮できたり、ガソリン代を節約できたり、利用者や家族の満足度が向上したりと多くのメリットがあります。
システムは様々な会社が開発しており、サービスも充実しています。それらを活用することで、送迎表を作成する担当者の負担を軽減するだけではなく、利用者にとっても便利な介護施設となるでしょう。
・Python
https://www.python.org/
・Google OR-Tools Vehicle Routing Problem
https://developers.google.com/optimization/routing/vrp
・Google map API
https://developers.google.com/maps/documentation?hl=ja
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